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東京地方裁判所八王子支部 昭和42年(わ)191号 判決 1969年2月28日

被告人 柘植洋三 外二名

主文

被告人柘植洋三を懲役三月に、被告人青木忠、同森田英雄をそれぞれ懲役二月に処する。

この裁判確定の日から、被告人らに対しいずれも二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を被告人柘植洋三、同森田英雄の(連帯)、その一を同青木忠の負担とする。

事実

(罪となるべき事実)

被告人らは、昭和四二年二月二六日午後二時ごろからアメリカ合衆国空軍立川飛行場基地滑走路北端に接続している東京都立川市砂川町二三四番地先空地で開催された二・二六集会実行委員会主催の「砂川基地拡張阻止青年決起集会」と名づける集会が終了したのち、これに引きつづき右集会の参加者らによつて同日午後四時一二分ごろから午後五時四八分ごろまでの間、右集会場所から砂川七番交差点、右基地第五ゲート前および高松大通りを経て同市曙町緑川駐車場にいたるまでの道路上で行われた集団示威運動に学生ら約一千数百名とともに参加したが、右集団示威運動に対し東京都公安委員会が与えた許可には、交通秩序維持に関する事項として「行進隊形は四列縦隊とすること」「だ行進、ことさらなかけ足行進、停滞等交通秩序をみだす行為をしないこと」「旗ざお等を利用して隊伍を組まないこと」などの条件があらかじめ付されていたにも拘らず、右集団示威運動に参加した学生らは、右許可条件に違反して、(1)同日午後四時一二分ごろ、梯団の先頭隊伍が竹竿を横に構えて持ち、これを利用して隊伍を組んだうえ、約一〇列縦隊となつて右集会場所を出発して行進を始め、(2)同四時二五分ごろから五日市街道上において、砂川五番バス停留所前付近にいたるまでの間、ことさらなかけ足行進をし、(3)右砂川五番バス停留所前付近の道路上において、約二分間にわたり、アジ演説を聴くなどしてことさらに停滞し、(4)砂川七番交差点付近から同市砂川町七九九番地立川バス南砂川営業所前付近にいたるまでの道路上で、ことさらなかけ足行進をし、(5)右立川バス南砂川営業所前付近道路上において、約二分間にわたり、アジ演説を聴くなどしてことさらに停滞し、(6)立川キリスト教会前付近から同町八二五番地右基地第五ゲート前付近にいたるまでの道路上でだ行進をし、(7)同四時五八分ごろから約二分間にわたり、右基地第五ゲート前付近の道路上で、アジ演説を聴くなどしてことさらに停滞し、(8)同五時ごろ、かけ足で右道路上を右折しながら、右第五ゲートのゲートボツクス前付近に配置され、デモ隊の右基地内侵入を阻止するため、警備中の警視庁機動隊に先頭隊伍が激しく突きあたり、(9)ついで、右機動隊に押し返されると、右ゲート前から約六・七〇メートル南方の道路上で、約七列の縦隊を組んで隊形を整えたうえ、同所から南砂川交差点付近にいたるまでの道路上で、ことさらなかけ足行進をし、(10)右南砂川交差点付近から同市高松町三丁目九一番地先にいたるまでの道路上で、だ行進、ことさらなかけ足行進をくりかえすなどしたが、被告人ら三名はほか数名の学生らと現場において意思相通じて共謀のうえ、右(1)の際に、主として被告人柘植が出発に先立つて学生らに対し「一〇列の隊形でスクラムを組んで進もう。」と演説したうえ、梯団先頭列外中央数メートル先に位置して出発し、被告人青木、同森田が隊伍先頭列外付近に位置し、右梯団の先頭隊伍が横に構えてもつ竹竿をうしろ手に掴んで引張り、右(2)、(4)の際に、主として被告人青木、同森田が隊伍先頭列外に位置して笛を吹き、先頭隊伍が横に構えてもつ竹竿をうしろ手に掴んで引つ張り、右(3)、(5)の際に、主として被告人青木が両手を上げて梯団の行進を停止させたうえ、学生の肩車に乗つて学生らに対しアジ演説を行ない、右(6)の際に、主として被告人青木が隊伍先頭列外に位置し、隊伍先頭が横に構えてもつ竹竿をうしろ手に双手で掴み、低く腰をかがめ、「わつしよいわつしよい」という号令をかけて進み、右(7)の際に、主として被告人森田が梯団の行進を停止させたうえ、学生の肩車に乗つて学生らに対しアジ演説を行ない、右(8)の際に、主として被告人柘植が隊伍先頭外数メートル先を梯団に正対しながら、左手をゲート方向に数回上下に振つてその向きをゲート方向にかえさせ、被告人青木、同森田が隊伍先頭列外に位置し、うしろ手に隊伍先頭が横に構えてもつ竹竿を掴んで引つ張り、右青木が笛を吹くとともに右手をあげて機動隊に突つ込み、右(9)の際に、主として被告人青木、同森田が隊伍列外で手を上げるなどして隊形を整え、被告人柘植は隊伍先頭数メートル先で梯団に正対しながら両手を上げて出発の合図をしたうえ、被告人ら三名は隊伍先頭列外に位置して進み、右(10)の際に、主として被告人柘植は隊伍先頭列外に位置し、梯団に背を向けたり、正対したりしながら手を上下左右にあげるなどして、また被告人青木は隊伍先頭列外に位置し、笛を吹いたり、手を振つたりなどして、前記竹竿を利用した隊伍の編成、約一〇列ないし七列の縦隊による行進、だ行進、ことさらなかけ足、停滞およびかけ足によつて警視庁機動隊に突きあたろうとして交通秩序をみだした行為などを指揮誘導し、もつて右許可条件に違反した集団示威運動を指導したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

各被告人につき、

昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団 包括して同条例五条、三条一項但書、刑法六〇条

示威運動に関する条例違反              (所定刑のうち懲役刑をえらぶ。)

刑の執行猶予                    刑法二五条一項

訴訟費用の負担                   刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条

(弁護人の主張に対する判断)

一  まず、弁護人は昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下本条例という。)五条のうち、三条一項但書の規定による条件に違反する集団行動の主催者らを処罰する規定は都公安委員会が許可する際に付する条件によつてその犯罪構成要件の具体的内容が補充されるいわゆる白地刑罰法規であるというべきところ、条例に罰則を設けることができるのは地方自治法一四条五項の委任規定に由来するものであるが、憲法七三条六号、国家行政組織法一二条一項、四項が政令において省令などの命令に罰則の再委任をするについても法律の直接の委任を要する旨規定している趣旨から明らかなように、本条例の如くいわゆる白地刑罰法規を設けて犯罪構成要件の具体的内容を都公安委員会に再委任するためには法律の直接の委任を要するものと解されるのに、右地方自治法一四条五項の規定にはこの再委任を許容していると解すべき根拠が明示されていないことは明らかであるから、本条例の罰則規定自体に犯罪構成要件とその刑罰が明定されるべきものであり、右地方自治法の規定の委任を根拠に本条例に白地刑罰法規を設けることは憲法三一条の罪刑法定主義の原則に違反し無効というべきである旨主張する。しかしながら、たしかに本条例五条のうち、三条一項但書の規定による条件に違反する集団行動の主催者らを処罰する規定は公安委員会が許可にあたつて付する条件によつてその犯罪構成要件の具体的内容が補充されるいわゆる白地刑罰法規であり、条例への罰則委任の根拠規定である地方自治法一四条五項にはその文言上かかる犯罪構成要件の補充を許容する旨明記されていないことは弁護人主張のとおりであるが、委任命令の罰則規定においても、その合理的必要があり、かつ法律の委任の趣旨に反しない限り、法律上これを許す旨の規定がなくとも、犯罪構成要件の内容を他の行政機関に補充させることが許される場合があるのみならず、地方公共団体が制定する条例は、行政機関の制定する政令、命令などとは異なり、住民の代表機関である議会の議決によつて民主的に成立するものであり、実質的には国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、国民ないし住民の総意を直接的に反映することなく、行政機関の非公開の手続で制定される委任命令に罰則を設ける場合の法理をそのまま前記のような特質を有する条例におし及ぼすことは当を得ない。さらに、都公安委員会が本条例三条一項但書により許可する集団行動に付与することができる条件は、同条項上、交通秩序維持に関する事項、集団行動の秩序保持、危害防止に関する事項などに限定されているうえ、これらの条件は集団行動の日時、場所、性格、進路の交通状況、参加予定人員などに応じ、各集団行動ごとに異なるべき性質のものであつて、これを一律に条例上規定することは実際上不可能であることなどを考えあわせると、都公安委員会の付した条件が不明確あるいは不合理であることを理由として憲法三一条に違反し無効となすべき場合があるは格別、地方自治法一四条五項の規定を根拠として本条例に前記のようないわゆる白地刑罰法規を設けたことをもつて直ちに憲法三一条に違反するものとはなしがたく、この点の弁護人の主張は採用できない。

二  つぎに、弁護人は都公安委員会が本件集団示威運動を許可するにあたつて付した(1)行進隊形は四列縦隊とすること、(2)だ行進、ことさらなかけ足行進、停滞など交通秩序をみだす行為をしないこと、(3)旗ざお等を利用して隊伍を組まないこと、との各条件はいずれも憲法三一条あるいは同法二一条に違反し無効である旨主張する。そこで検討するに、まず「行進隊形は四列縦隊とすること」との条件は、前記各証拠によると、本件集団示威運動の進路となつた道路の巾員が集会場所から砂川七番交差点にいたるまでの五日市街道においてとくに狭く約六・五メートルであり、砂川七番交差点から高松大通りを経て解散場所にいたるまでの道路において約九ないし一〇メートルであつたこと右進路が立川市内の中心道路にあたり、人車の交通がとくに激しかつたことが認められ、これらの道路交通事情に参加人員数を考えあわせると、公共の福祉との調和をはかるため本件集団示威運動に課せられた必要最小限度の合理的制約であると解され、これをもつて違法、不当ということはできないしまた、右条件が犯罪構成要件として明確でないともいえない。つぎに、「だ行進、ことさらなかけ足行進、停滞など交通秩序をみだす行為をしないこと」との条件は、右にみた道路交通事情や参加人員数に照らすと、本来平穏裡に秩序を重んじて行われるべき集団示威運動において、とくに遵守されるべき事項であつて、公共の福祉との調和をはかるため本件集団示威運動に課せられた必要最少限度の合理的制約であると解され、これをもつて違法、不当ということはできないしまた、「だ行進、ことさらなかけ足行進、停滞」という文言が犯罪構成要件として不明確であるともいえない。もつとも、これらの条件は本条例三条一項但書三号の「交通秩序維持に関する事項」について付されたものであるうえ、右各条件は同三条一項本文所定の「集会、集団行進又は集団示威運動の実施が公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる」事態を回避するに足りる必要最小限度を基準として付されるべきものであるから、右はいずれも交通秩序をみだすおそれのあるすなわち交通秩序に具体的な危険を生ぜしめる程度のものであることを要するものと解するのが相当である。さらに、「旗ざお等を利用して隊伍を組まないこと」との条件は、旗ざお等を利用して隊伍を組んだ場合、行進する道路交通状況の諸変化に応じて、参加者が時宜にかなつた危険の防止ならびに回避をすることがむずかしくなるうえ、先頭部分に行進集団の物理的エネルギーが集中し、その統制力を弱化させ、容易に交通秩序をみだす行為にでる蓋然性が高くなることを考えあわせると、これも公共の福祉との調和をはかるため本件集団示威運動に課せられた必要最小限度の合理的制約であると解され、これをもつて違法、不当ということはできない。

三  最後に、弁護人は本件デモ行進は政府による立川飛行場基地の拡張を阻止するため、政府や基地関係者にその非を訴えることが主目的であり、これは平和憲法下における日本国民として当然のことを主張する手段にすぎないところ機動隊、私服警官などの圧倒的な規制行為が本件の混乱を助長したものであつて、被告人らの本件行為は社会的相当行為であるから違法性を阻却する旨主張するもののようである。しかしながら、たしかに、集団示威運動が思想表現の手段として最大限に尊重されなければならないことはいうまでもないが、それは平穏裡に秩序を重んじてなさるべきものであるのに、本件においては、判示認定のとおり、行進開始当初から許可条件に違反する行動をくり返し、あるいは機動隊による規制とは無関係にこれに激しく突つ込むなどの行動にでたものであり、これによつて生じた交通の渋滞、付近住民の平穏な生活の破かいなどを考えあわせると、その動機目的が正当であつたとしても、その手段、方法において相当であつたとは到底認めることができない。この点に関する弁護人の主張も採用できない。

(裁判官 樋口和博 水沢武人 伊藤博)

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